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研磨教室
 

研磨加工、研磨加工機の基礎から応用までを学ぶ

浜井産業株式会社技術顧問
(元技術部長、関東職業能力開発大学校講師)
杉下 寛

この『研磨教室』連載の狙い(5回連載)

昔からある精密加工,磨き加工また研磨加工機はどうやってできたのか?
どう発展してきたのか?
本研磨教室では,超精密研磨加工が現代でも最先端技術の1つとして使われている秘訣を解き明かすことでこれからの超精密研磨加工機、研磨加工学が発展して行く礎(いしずえ)を学ぶ第一歩としたい。

講義内容目次
  • 第1回 研磨加工の基礎と変遷、刀剣、水晶の研磨加工
  • 第2回 現代研磨加工機と研磨加工(シリコン,SiC,GaNなど)の今
  • 第3回 現代先端研磨加工と研磨加工機の基礎
  • 第4回 研磨加工用資材と研磨加工機の進化
  • 第5回 現代先端研磨加工とこれからの研磨加工機の課題と発展

(講義内容は変更になることがあります。)

注:専門用語について、簡単に注として説明を付けています。参照下さい。

超精密研磨加工は,1300年もの昔から磨き技法として発達して勾玉,水晶,銅鏡,刀剣などに成果をあげて日本独自に発展してきた.現代でも携帯のカウント用水晶やディスクガラス,半導体シリコンウエハーの磨きなどに活かされてまだまだ進化をし続けている.

【1】正倉院の水晶磨き玉

8世紀中頃の天平時代に創建された正倉院に水晶の磨き玉があり、現代でもその輝きは,素晴らしく良く磨かれて光っている.手磨きしか無い時代に良くぞここまで磨いたものと感嘆する。

正倉院とは?

8世紀の中頃,奈良時代の天平年間に,聖武天皇の七七忌の忌日にあたり,光明皇后は,天皇の御冥福を祈念して,御遺愛品など六百数十点と薬物六十種を東大寺の本尊盧舎那仏(るしゃなぶつ,大仏)に奉献されたと言われています。
現在は宮内庁所管で,宝庫は古来の正倉のほかに西宝庫・東宝庫があり,宝物はこの両宝庫に分納して保存されており.この中に磨き勾玉やカットグラス,磨き琥珀(こはく)などで造られた鏡などが残されている.
1200年前にこれだけの磨きがされて,しかもそのまま保存されているのは,世界でもまれです.

日本人の古代の人に対する敬慕の念と共に技術的に優れたものを後世に残して行こうとする「強い思い」のおかげで,現在の磨き技術も伝承されて今があるのだとわかります.
特に亡き人を偲んで残された物には,作ろうとした人とその想いを受け継ごうとする人との愛情の詰まった宝物が多く,これは世界共通と思われる.

【2】銅鏡の磨き

これまでは,磨き粉をつけて人手で数カ月〜1年以上かけて磨いていた.
近年は,職人さんがいなくなって研磨機械で磨き,1週間程度で完成することができるようになった.それでも最終の仕上げ磨きは,職人さんが研磨機械のミクロの自公転の軌跡をなくすように仕上げている.まずは,銅鏡表面の凹凸に合わせて受けを石膏で型作りをして片面機で研磨する.  図1に銅鏡の裏面の研磨例を示す.(Åクラスの鏡面を達成している.)

また,大きな神宮が遷宮する時などは,大小たくさんの銅鏡もいっせいに造り変えられるため,全部で100個近い銅鏡を造って磨きあげることもあるという.銅鏡入れの箱も別あしらえとなるので,一大イベントとなっている.

出土する物や神宮にある銅鏡の文様がどのようにして決まるのか?神獣や各家の文様などを浮き彫りにして権威を象徴させているので,文様をたどると各年代の特長が良く出てくる.また年代が下がると,初期は質素な木箱だった銅鏡箱にも装飾が施されて豪華になっていったという.

【3】刀剣の磨き

1200年前から刀剣の磨きが行われ,日本刀独特の磨く技術が砥石をも発展させた.
砂鉄(玉鋼たまはがね)を原料として松炭を使って炭素を吸収させていく.心鉄(軟鉄)の周りを均一に鋼で覆うように交互に折り返し鍛錬を行い,焼き入れを施してから研磨工程に入る.酸化クロム、ベンガラを用いて研磨を行ったことが知られている.
実際,刀剣磨きの見事さは素晴らしく,現代でもその曲面に沿って磨くことは非常に難しく,日本で磨きが独自発展してきたことを強く感じる.

酸化クロムを用いて日本刀の研磨を行った!!何故か?

刀剣仕上げ磨きになぜ、酸化クロムを用いたのか?

昔の人が,酸化クロムを良く知っていたとは思えず,なぜ刀剣の磨きに酸化クロムを用いたのか?現代の加工データで確認を行なってみた.図2にメカノケミカルの加工面粗度を示し,図3に酸化クロムの加工レートを示す.

このように現代の加工技術で検証しても,酸化クロムの面粗度・加工レートともに非常に良いことが判明して,昔の人の経験値が合っていてその良さを分かった上で酸化クロムを用いていたことが証明された.

昔の人の経験値は,すごい!

【4】現代の水晶研磨

@水晶のラッピング

ラッピングは,1章で記しているように磨き加工の代表として古くから行われているが,近代のラッピングは第二次大戦時に水晶ラッピングの加工精度差が戦闘機の高精度通信化に大きな影響を与えるとわかって,世界中でラッピング加工法が研究されだしたと言われている.日本では,1953年当時の通商産業省(現経済産業省)が今後通信用カウンターなどの工業化が必要との展望から水晶ラッピングを水晶メーカーと工作機械メーカー浜井産業に高精度水晶加工装置を造るよう指導したのが最初と言われている.

A水晶の発振周波数と厚みの関係

水晶は,その特性から電圧を加えた時に水晶結晶が変形して発振周波数を正確に出し続けることができる.この発振周波数と厚みとが反比例式の関係にあり,式で表わすと式(1)になる.

反比例式を図で表わすと図4になり,簡単計算式t(mm)=1.667/fo(MHz )で表わされる. また,極薄水晶はへき開性があって割れやすいのに,ある程度薄く研磨されると靱性のおかげで曲げることができるようになる.図5に薄水晶の曲げ写真を示す.

B水晶の圧電現象と製法

オートクレーブ(高温,高圧人工水晶育成炉)

オートクレーブは,1953年〜1954年に山梨大学が水晶を人工的に作る為に開発した小型の高圧高温炉であった.これを企業が商業的に可能な大規模オートクレーブに仕立て上げたと言われている.

C水晶の加工データなど

現在の水晶加工は,一般的な周波数帯である30〜50MHz(33.34〜55.56μm)を全世界で加工しているが,日本では,海外がまだ加工できていない,より高周波の薄い100 MHz(16.67μm)付近の加工に挑戦して結果を出しているメーカーもある.図7に水晶の加工例を示す.厚みバラツキがMax0.115μmに抑えられている.

また水晶,ガラスなど透明な光学部品の精度測定には,光干渉法による測定が行われ,その精度をλ(ラムダ)で表すのが一般的となっている.

【5】ラッピング技能検定

日本には,工業製品の加工技能に対して技能検定の制度があり,自分の技能がどの位か?確認して国,県などの公共機関に認めてもらうことができる.研磨加工関係では,ラッピングの技能検定があり,1級と2級を受験できた.
(現在では,ラッピングの受講者が少なくなって,2010年を最後に一時休止となっているが,技能向上と技術伝承の観点から非常にもったいない.)
図9の昔ながらの2ウェイ研磨加工機でブロックゲージ風の塊をラッピングして,精度を測定・確認して合否を決めている.実は,この機械が日本で最初のラッピング機と同型機でそのまま,生き残って技能検定に使われていた.

1956年(昭和31年)日本で最初の2ウェイ両面ラップ盤での加工テスト報告書で良精度が出たとある.

ラッピング技能検定1級の場合の作業概要と結果例

1級:次に掲げる作業を行う.

ラップ盤(ラップ板径250〜650mm,複ラップ形又は単ラップ形のいずれかを選択する.)を使用して,SUJ2,又はSKS2の焼き入れ焼き戻し材料[30×15×(複ラップ形約24,単ラップ形約14)mmのブロック状のもので,硬さは60〜63HRC]を加工し,平行度,平面度等を所要精度に仕上げる.
製品製作個数は単ラップ形,複ラップ形いずれの場合も10個とする.

試験時間 複ラップ形ラップ盤の場合 3時間30分
     単ラップ形ラップ盤の場合 3時間30分

となっており,図9の両面2ウェイ複ラップ盤で加工を行って精度確認をして合格,不合格を決定している.
ちなみに最後に行われた2010年の検定試験では,ブロックゲージのメーカーなどからの受験生8名含めて計10名が1級を受験して5名合格であった.
1級クラスでは,実際の加工現場と最後に検定する検査室の温度差も勘案して,0.5μm程度プラスマイナスさせて合格を目指すことができる技術内容を持っている.
(浜井では5名がラッピング1級に合格している.)


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